ずっと好きだった女の子、とうとう想いを伝えることができず

私にとっての初恋は、小学生2年生の頃のことでした。

それまでも、何度か「好きな人」という存在がいたことはあったのですが、自分の中に明確な恋心を認知したのは、この時が初めてでした。

私が好きになったのは、クラスの中でも一際大人びた雰囲気を持った、背の高い、頭の良い女の子でした。

いつも冷静で、少し話しかけづらいほどのクールなオーラを纏った彼女でしたが、笑った顔がとても可愛らしく、いつしか私は、彼女の笑顔を見ることが目標のようにすら感じていたのです。

 

当時、私は大人しいながら明るい性格だったので、すぐに彼女と仲良くなることが出来ました。

念願としていた眩しい笑顔も、毎日のように見ることが出来ました。

しかしながら、私は背が低く、運動も勉強も彼女より出来ず、お世辞にもカッコイイ男子ではあり得なかったのです。

憧れの彼女と仲良くなることは出来たものの、そこにはどうしようもない格の違いのようなものがあり、幼いながら、友達でしかあり得ない自分に情けなさを感じていました。

小学2年生の時点ですらその有様でしたから、学年が進むと、彼女と私の間の成長度合いのギャップは、ますます大きくなっていきました。

小学4年生になる頃には、彼女は明確に「お姉さん」としての空気を醸し出すようになり、仲が良いはずの私でも、目を見て話すのが緊張するほどでした。

一方の私は、相変わらずの子供っぷりで、背の順でも前から2番目、声変わりもまだまだ遠い未来のようでした。

ですが、少なくともこの時点まで、3年間に渡って、私が好きだったのは、この女の子ただ1人だったことは確かです。

 

私たちが小学6年生になった頃、周りの男子たちも、恋に浮かれる年頃になってきました。

皆、それぞれに好きな子ができ、修学旅行の日の夜などに、明かし合うこともありました。

私が好きだった彼女は相応に人気があり、私は自分の恋敵の多さに、ますます気後れしてしまうような思いでした。

先を越されないようにと、小学校卒業を機に、彼女に告白しようかとも思いましたが、中学も同じところに進学するのだからと、臆病になって逃げてしまいました。

 

中学に入ってから暫くして、私と彼女の関係に、少しずつ変化が見られるようになってきました。

まず、私自身が成長期に入りました。

彼女の身長を抜かし、適度な筋肉もつき、声変わりもして、子供っぽさがだんだんと薄れていったのです。

また、彼女も相変わらずの秀才でしたが、私の成績も向上し、中学2年生に上がる頃には、私の方が成績では上回るようになりました。

そして何より、彼女の方から私に対してアタックを仕掛けてくることが増えました。

最初は、自分が彼女のことを好きすぎるがゆえに、過剰に反応してしまっているだけなのだと、気持ちを抑えていました。

ですが、何もないのに私の方を見て笑顔を向けてきたり、一緒に物を運ぶ時に手を触れてきたり、雨の日に相合傘をして帰ったこともありました。

 

今思えば、彼女も、私のことを好きでいてくれたのだと思います。

というより、彼女にとっては、私が好意を寄せていることは、数年前からバレバレだったのだと思います。

長年、一途に彼女に愛を向けていた私を、そして適度に成長し、彼女に相応しいかもしれない男になれた私を、彼女は認めてくれたのかもしれません。

中学2年生の修学旅行をきっかけに、私は彼女に告白をして、正式に恋人として付き合ってほしいと告げることを決意し、友人にも相談しました。

 

しかし、これが完全に仇となってしまったのです。

おそらくは、私の恋が成就しそうになっていることに嫉妬したのでしょう。

その友人が発信源となり、私が別の中学の女子と1年前から付き合っているという噂が水面下で流れ、彼女の耳に入るところになってしまったのです。

彼女からすれば、恋人がいながら自分に色目を向けてきた男だったのかと、裏切られたような気持ちになったことでしょう。

彼女の態度は途端に冷たくなり、私が話しかけても笑顔を見せてくれることはなく、私は何が何だかわからなくなってしまいました。

修学旅行の間中も、遠巻きに彼女を見ることが精一杯で、目を逸らされるなか、とても告白など出来る状態ではありませんでした。

結局、私がありもしない自分の噂話のことを知ったのは、ついに彼女に何も伝えられないまま、中学校を卒業した後のことでした。

 

こうして、私の初恋は、最後に苦々しい後味だけを残して終わりました。

小学校2年生から、中学校卒業まで、ずっと彼女のことが好きでした。

もっと早くに素直に想いを伝えていれば、また違った物語に出会えたのでしょうか。

 

ですが、運命は最後にちょっとだけ、私にオマケしてくれたようでもありました。

私が大学生になった時、思いがけず、道端で彼女と再会したのです。

彼女はあの時と変わらず、お姉さん的なクールな空気を纏ってはいましたが、私に向けてくれた笑顔の眩しさは、最初に彼女を好きになった瞬間のそれと全く変わっていませんでした。

その笑顔を再び見られただけで、私は全ての後悔を忘れることが出来たのです。

そして恐らく、彼女の方も。

彼女はそのまま、恋人の手を引いて去っていき、私もまた、恋人の手を取って反対方向に歩き去ったのでした。