自転車をパクった私が連れて行かれたのは大きな御屋敷

駅に自転車を置いておいたら盗まれた。

私、「自転車が無いとバイトに遅刻するじゃねえか」

同じ高校に通う友達のA君、「ここに置いたの?他に置いたんじゃないの」

私、「ここで間違いないよ、改札口に一番近いんだから」

A君、「パクられた自転車はママチャリ?」

私、「違うマウンテンバイク」

A君、「お前がマウンテンバイク?」

私、「俺がマウンテンバイクに乗って悪いかよ」

A君、「普通、ヤンキーはマウンテンバイクに乗らないだろ」

盗まれたマウンテンバイクは、私が3日前に拝借したもの。

仕方がないため、近くにあったカギが掛かっていないママチャリを拝借した。

バイトの居酒屋を出たのが夜の10時過ぎ。

私、「もしもし、母ちゃんはいる?」

小学生の弟、「いないよ」

私、「メシは食った?」

弟、「まだ食べてない」

受話器からは妹の泣き声が聞こえたため、コンビニで弁当を3つ買った。

1家に帰ると、玄関に母親の靴は無かった。

部屋から聞こえるのは妹の泣き声。

私、「オムツは替えた?」

弟、「替えた」

私、「ミルクは?」

弟、「あげた」

赤ちゃんの妹は、私の顔を見ると泣き止んだ。

弟、「兄ちゃんは、どれを食べるの?」

私、「兄ちゃんは何でも良いから、お前は好きな弁当を食べな」

再び赤ちゃんが泣き出したのは、弟の弁当が欲しいから。

母親にも私にもキツク言われている弟は、妹に弁当をあげることはなかった。

妹が泣き止んだため弁当を食べ始めると、カツカツとハイヒールの足音が聞こえた。

弟、「母ちゃんが帰って来た」

私、「ドアを開けてあげて」

弟が玄関ドアを開けるのが遅れると、母親はドアチャイムを何度も鳴らした。

弟、「母ちゃんウルサイよ、赤ちゃんが起きちゃうだろ」

母親、「たっだいまー」

母親が陽気なのは酒に酔っているから。

母親、「これ食べな」

弟、「あっ寿司だ。兄ちゃん食べよ」

私、「俺は良いよ」

私が寿司を食べないのは、母親がどうやって寿司を得たのか見当がつくため。

弟が寿司の包装紙を外し始めると、再びカツカツと足音が聞こえた。

弟は久しぶりの寿司を夢中に食べているため足音に気づかなかったのだが、妹が泣き出した。

「ピンポーン」

ドアチャイムが鳴ると、夢中に寿司を食べていた弟が私を見た。

コンビニ弁当を食べていた私が立ち上がろうとすると、

母親、「出なくて良いわよ」

この一言で、幼い弟も誰がドアチャイムを鳴らしたのか分かったらしく、寿司を食べるのを止めた。

母親、「朝には帰って来るから」

弟、「もう行っちゃうの?」

母親、「お兄ちゃんがいるだろ」

弟、「お兄ちゃんが高校へ行くまでには帰って来てよ」

朝になっても、母親が帰って来ることは無かった。

弟、「兄ちゃん、もう行っちゃうの?」

私、「行かないと遅刻しちゃうんだ」

「ピンポーン」、ドアチャイムを鳴らしたのが私の友達と分かると、弟はガッカリ。

私を迎えに来る友達のことを、幼い弟は嫌っている。

私、「行って来るよ」

私が声を掛けたのは弟でも妹でもなく、奥の部屋にいるアル中の父親。

前日、パクったママチャリに乗ろうとすると、部屋から弟と妹の泣き声が聞こえた。

弟達のことが気になるため

私、「先に行ってて」

友達のA君、「今度遅刻したら退学だぞ」

弟達のことは気になったのだが、高校へ向かった。

家の事情を知っている友達のA君、「お母さんは帰って来てないの?」

私、「帰って来たけど、また出て行った」

男と飲み歩く母親のことは聞いて来ても、アル中の父親のことは聞いて来ないA君。

自宅アパートから最寄り駅までは自転車で15分、パクったママチャリは改札口に一番近い駐輪場に停めたのだが、学校から帰って来ると、改札口から遠い駐輪場に停めてあった。

私、「誰だよ、俺の自転車を勝手に動かしたのは?」

A君、「でも良かったじゃない」

前日同様、パクった自転車のお陰でバイトに間に合った。

バイトを終えた私は、コンビニで弁当を買ってから自宅アパートへ帰ると、幼い弟がアパートの駐輪場で私の帰りを待っていた。

私、「ただいま」

弟、「・・・」

弟が返事をしないのは、アル中の父親に叱られたか、男と飲み歩く母親に叱られたかのどちらか。

私、「今日は焼き肉弁当だぞ」

弟、「えーまた」

肉が好きな弟でも、3日も焼き肉弁当が続くと、さすがに飽きたようだ。

部屋に入ると、幼い弟が自らガラス戸を開けたのは、部屋の中が赤ちゃんのウンコで臭かったから。

オムツ替えをしてもらえない赤ちゃんは泣いている、それを見て弟は嫌そうな顔をした。

赤ちゃんのオムツ替えをしてからコンビニ弁当を食べていると、コツコツと足音が聞こえた。

母親が帰って来たと思った弟が玄関ドアを開けると、「僕1人?」、弟に話し掛けているのはスーツ姿の男性。

弟、「ううん、兄ちゃんもいるよ」

スーツ姿の男性、「部屋に上がって良い」

弟、「お兄ちゃん、お客さん」

私がとっさに部屋から逃げ出すと、スーツ姿の男性が私のことを追いかけて来た。

この様なシチュエーションは過去に何度もあるのだが、どうして追われるのか理由が分からない。

スーツ姿の男性から逃げ切ることが出来た私は、高校の制服に着替えるために、朝の5時ごろアパートに戻った。

寝ている弟達を起こさないよう、静かに制服に着替えた。

追われる理由が分からない私は、普段より2時間早い5時30分に家を出たのだが、アパートの駐輪場にはパクった自転車が無かったため、歩いて最寄り駅に向かった。

最寄り駅に着いた私は始発の電車が来るまでタバコを吸っていると、駅のロータリーに黒塗りの高級セダン車が数台停まった。

その車から出て来たのが、私を追いかけたスーツ姿の男。

マズイと思ったのだが、家がバレていては家族に被害が及ぶと思い、自らスーツ姿の男に近付くと「車に乗れ」と言われ、連れて行かれたのは大きな御屋敷。

スーツ姿の男、「降りろ」

御屋敷に入ると、パジャマ姿の男が私に「お前か、娘の自転車を盗んだのは?」

今まで沢山の自転車をパクっているため、どの自転車のことを言われているのか分からなかったが、相手は素人には見えないため

私、「スイマセンでした」

御屋敷の玄関で土下座していると、パジャマ姿の女の子が出て来て「もう許してあげて」。

土下座している私が顔を上げると、女の子の着ているパジャマが透けてチクビが見えた。

すると、チクビを見られたことに気付いた女の子は、赤面しながら手で胸を隠した。

パジャマ姿の男、「どうかしたか?」

女の子、「なんでもない」

女の子のお陰で私は許された。

御屋敷の駐車場に停まっているのは黒塗りの高級車ばかり、御屋敷を囲う高い塀には有刺鉄線が張られ、普通の家でないことは容易に想像が出来た。

友達のA君からは、その御屋敷には近付かないほうが良いと言われたのだが、パジャマから透けて見えたチクビをもう一度見たくて、何度もその御屋敷の周囲をウロツイた。

友達のA君、「バレたらマズイよ」

バレたらマズイことは百も承知、しかし、パジャマからチクビが見えた女の子は、私にとっては初恋の人でもあったためウロツくことはヤメられなかった。

私がウロツイていることは防犯カメラで見られており、御屋敷から出て来たガラの悪い人達に私はヤキを入れられ、私の初恋は2日で終わった。